紺野昌彦のコラム・台湾、台北の不動産利回りは低い。そのメカニズム
総選挙で独立色の強くなった台湾、中華民国。
その首都でもある台北は人口約261万人で台湾の政治と経済の中心地でもあります。
台北市と隣接する新北市は台北市より面積も広く、人口も396.7万で台北首都圏の人口は隣接市町村を合わせて約700万人となります。この人口は台湾の全人口2346万の約3分の1近くになり、それが台北とその隣接地に集中しています。
台北市の人口規模から見ると、西日本で例えると福岡と北九州を合わせたような規模で、大阪市よりも50万人ほど少ない人口となります。 このような台湾の不動産事情はあまり日本では馴染みはありませんが、それを少し見てみたいと思います。 日本のお隣でありながら知られざる台湾の不動産は、台北市をはじめ不動産の高騰が断続的に続いています。
台湾も実は、1997年、香港がイギリス領から中国に返還されて以来、次は台湾が中国に併合される可能性という懸念もあり、土地の所有を認めていない中国の土地政策の違いから、不動産は資産として人気は低く実は長い期間、不動産価格は低迷してきた背景があります。
この頃までは中国と台湾の対立から台湾海峡危機など中国との軍事衝突の可能性もまだありましたが、以降中国の資本経済導入と経済成長の加速により中国そのもが国際経済に組み込まれ、グローバル化も加速して、武力での統合というリスクが大きく軽減されました。それに連れ、台湾での不動産価格が上昇にシフトした傾向があります。
いわば中国の経済成長に連れて、軍事衝突と軍事力での統一というリスクが軽減するにつれて、台湾域内の土地の価格が高騰している流れが見て取れます。
ようするに台湾人が資産として自国(地域)の土地、不動産として転換する傾向が進み地価が上昇に転じました。
先日の台湾の選挙の様子を記事にしましたが、台湾の民度、アイデンティティも中国人から台湾人という認識も、中国が共産社会から市場経済を導入し、世界経済へと台頭するに比例して、台湾人アイデンティティとして確立している背景からも非常に面白い連鎖であることが読み取れます。
このように急激に台湾の地価が2000年頃より高騰しだしますが、現在では日本の地方都市以上に高値で不動産取引されているのが実情でしょう。
これには先ほど書いたように、台湾人が土地を資産として買い増しする速度の早さもありましたが、もう一つは台湾には相続税が10%と低い税率というのも後押しした背景もあります。
このメカニズムと例えるとこのようなイメージです。 現在35歳の男性をイメージしましょう。おじいさんの代の土地家屋、お父さんの代の土地家屋とが相続税として国に取られることなく残っている状況があります。また急激に土地や不動産を資産とした価値が急上昇している背景もあるので、新たに不動産を取得する際に、担保となる物件の価格も安定上昇し、新たに借入する際の銀行与信力が非常に高い世帯が増加しているのが挙げられます。
このような背景からさらならる不動産の買い増しが続いているのが、台北市内の不動産の価格が実勢より高く値上がり、利回りが1%、2%と低い状況というのが生まれているのです。
また現在の台湾の人口規模からも、そして台湾人の所得水準の上昇率よりも不動産価格の上昇の方が早く、現在の台湾での平均所得で一定の不動産需要となる賃貸価格水準値を維持すると現在の低い利回りが相場となってしまい、台湾ならではの特殊な背景が読み取れます。
このように台湾域内の不動産の価格高騰と利回りの低さから、台湾人の日本不動産を求める傾向や、タイやカンボジアなどの新興国不動産への注目度や投資速度は日本以上に加速している状況も同時に発生しています。この背景もまたレポートしたいと思います。
台湾に旅行した際に一度台湾の不動産業者を覗いて見るのも面白いかもしれません。
※台湾は土地の所有は認められています。 中国メインランドは土地の所有が認められていません。99年と75年の定期借地権のみで政府からの借地となります。 また香港も中国メインランドと同じく、土地の所有は認められていません。こちらも99年、75年の定期借地権で香港政庁からの着地となります。
紺野昌彦