超富裕層の海外資産に国税庁のメス

超富裕層の海外資産、所得隠しにメス

来年の㋆より国税庁は超富裕層の税逃れ、いわゆる海外資産の監視強化と資産隠しに対応する国家戦略トータルプランを発表しました。
これまでも海外への資産フライトに対する監視は行われていたのでしょうが、マンパワーの強化でプロジェクトチーム化するのは初めてです。

日本(政府、企業、個人)が海外に持つ資産総額は約800兆円。
日本の国債発行額に匹敵する海外資産があります。このうち純資産だけで300兆円以上はあると言われています。
もちろん把握できていない資産もまだまだあるでしょう。

 

以下は朝日新聞記事

「国税庁は25日、国際的な租税回避や富裕層による海外への資産隠しなどに対応する「国際戦略トータルプラン」を公表した。このなかで、富裕層の中でも特に資産を持っている人たちの情報を専門的に集めて監視する取り組みを、来年7月から全国に拡大することを明らかにした。「パナマ文書」の公開やOECD(経済協力開発機構)による税逃れ対策の進展で、国民の関心が高まっていることから、国際的な課税への取り組みを初めて取りまとめて示した。超富裕層への取り組みは「重点管理富裕層プロジェクトチーム(富裕層PT)」といい、2014年7月に東京、大阪、名古屋の各国税局に設置した。現在は計約50人で構成する。」

このような海外資産に課税する事で税収の増化や、個人の資産の監視、管理体制を拡充させるのが狙いでしょう。

超富裕層と言えば何十億円、何百億円という資産をイメージするでしょう。
これは海外、世界レベルでの超富裕層で日本の富裕層、超富裕層の定義はもっと低い額面なのです。
このようなセグメントはマーケティングなどの世界では、年収に加えて資産額を評価することで富裕層かどうかを定義するのが一般的です。
預金額や株などの金融商品といった資産の額から、その人の持つマイナス、いわゆる借金を差し引いたものを、純金融資産と呼びますが、この金額が1億円以上あると富裕層と分類しているようです。
たったの1億円です。親から財産受け継いだ時点で自動的に富裕層という方も多いのではないでしょうか。
日本では純金融資産が1億円以上の富裕層は、約100万世帯もあると言われています。
日本の総世帯数は6000万弱ですから、約1.6%が富裕層に属することになります。そして超富裕層は5億円から10億円レベル以上の資産を持っている人を定義しているようです。ちなみに超富裕層の数は5.4万世帯。日本国内で富裕層以上が持つ金融資産は241兆円となっていますが、日本全体での純金融資産は約1300兆円から1500兆円と言われているようですので、海外にある800兆円の資産総額(債務額含む)相当な数字となっています。
※数字は野村総合研究所資料より。

罰則強化の確立

現在すでに日本人の海外資産を監視するために様々な方法が取られています。
国内の強化は皆さんご存知のマイナンバー制度です。これは米国のソーシャルセキュリティー制度と同じ仕組みで、国内の資本の動きを給与から追跡できるようにする制度です。
現在すでに証券口座の開設や一部の銀行では銀行口座、そして一定額以上の海外送金などは、マイナンバーが必要になっています。
来年以降さらにマイナンバーの掲示を求められる機会が多くなることでしょう。

既に今回の超富裕層の資産隠しへの対策強化に先立って、段階的に多くの制度が設けられています。

3年前に制度化された国外財産調書制度国外債務調書制度があげらます。
これは海外に5000万円以上の資産(不動産、証券、預金など)を持つ場合毎年年末12月31日時点で所有する海外資産に対して、翌年3月15日までに申告する義務を設けた精度です。
これを怠ると、税法違反ではなく、刑法に払拭するようになったのが特徴でしょう。

また昨年㋆には出国税という制度も設けられました。
これは日本国内に1億円以上の資産を持つ人が海外に移住する際に持ち出す資産に課税される制度です。

このように富裕層の資産フライトに対して刑事罰、罰金を課す仕組みが出来上がったので、これから海外へ隠し資産を持っている超富裕層をターゲットにハンティングを始めるようです。

一番大きなものは、世界100以上のオフショアを含む国と地域で租税条約が強化されたことでしょう。
2018年からはCRSによる金融口座(銀行口座、証券口座)の自動交換システムの導入でしょう。現在のところ2018年9月には初回の交換が行われるようです。

冒頭に書いたように日本人が持つ海外資産は約800兆円。
これを監視、管理、課税する仕組みが今まで存在しなかったのが今となって足早に体制強化となっている状況なのかもしれません。
特にここ10年でグローバル化は加速し、中小零細企業でも海外に飲食店などを軒を並べるようになり、またそのまま海外に長期間就労する人も出てきたこともあり、今後は更なる制度が増える可能性が高いでしょう。

既に数年前に海外に持ち出した資産の対し、国外財産調書で申告していない富裕層、超富裕層は相当数いるかもしれません。
時折香港やシンガポールなどで聞く話では、逆に持ち帰ることもできずに、処理に困っているケースも多いようです。
これまでは海外のプライベートバンクなどもなんなく預かって運用してくれてた資産も今後は開示請求に応じて開示するようにもなり、昨年くらいからは国外財産調書を提出しているかの質問書を出してYES回答がなければ、預からない運用しないことも出てきているようです。

今後の流れを追跡していきたいと思います。

紺野昌彦

紺野昌彦

以下は国税庁の海外資産に対する強化プランです。

(1)局統括国税実査官(国際担当)・国際調査課
・東京、大阪、名古屋局にPTを設置
・富裕層のうち、特に多額の資産を有していると認められる者を関係個人
・法人と一体的に管理 ・管理区分に応じた情報収集、調査事案の企画
・全国的な実施体制に拡大(平成29(2017)年7月以降)

(2)局・署国際税務専門官 ・国際的な課税上の問題がある事案を発掘するとともに、積極的に調査を実施
・税務職員全体の海外取引調査に係る能力の向上のため、OJT研修を実施
・局・署の国際税務専門官の増設を要求(平成29(2017)年度要求中)
・国際的租税回避事案に関する資料情報の収集
・分析及び調査事案の企画 ・複雑な海外取引に係る調査手法の研究
・開発 ・局統括国税実査官(国際担当)の増設を要求(平成29(2017)年度要求中)
・国際課税の司令塔(国際課税に関する対応策の検討、指導及び監督)を担う庁国際課税企画官 の設置を要求
・局統括国税実査官(国際担当)や局・署国際税務専門官の増設を要求(再掲)
・国際課税に係る専担者等の増員を要求

(3)重点管理富裕層PTの設置・拡大
・東京、大阪、名古屋局にPTを設置
・富裕層のうち、特に多額の資産を有していると認められる者を関係個人
・法人と一体的に管理 ・管理区分に応じた情報収集、調査事案の企画
・全国的な実施体制に拡大(平成29(2017)年7月以降)

(4)国際課税関係の体制整備(平成29(2017)年度要求中)
・国際課税の司令塔(国際課税に関する対応策の検討、指導及び監督)を担う庁国際課税企画官 の設置を要求
・局統括国税実査官(国際担当)や局・署国際税務専門官の増設を要求(再掲)
・国際課税に係る専担者等の増員を要求

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